2013/12/31

書楼弔堂 破暁/京極夏彦 著

 ここ暫く気力が萎えてしまい読書ができませんでした。何が駄目だったわけでもなく只、気力が湧かないというのは実に困ったものです。とはいえその間にも「それから/夏目漱石 著」を読み返したり「年中行事覚書/柳田國男 著」を読了していましたが、どうにも感想を得るに至りませんで。夏目先生の文は筆者にとり最上で、柳田先生の民俗学的知見は素晴らしいものなのですが、ウーン読んだらお腹いっぱいになって寝ちゃった感じ。それはそれで一つの感想なのかも知れませんが、時と共に風化してしまいます。あまり嬉しいものではありませんね。
 他にも調べ物に長いこと掛かっているものがあったりと理由はあるのですが、さて置いて。これではいかんなァと思い久々に新しいものを読んでみた次第。新シリーズだったこともあり若干敬遠してまだ手に入れてなかったのですが……京極先生の新刊です。

 いやあ、読書って本当に良いものですね(えっ
 ウーンこれはキました。久々に京極堂シリーズの頃の雰囲気です。

 明治二十年代の東京。妻子を残して田舎へと転地療養していた高遠は、行き付けの書舗の丁稚に偶さか出会い、近場にある古本屋の話を聞く。そこには当たり前に取り次ぎの出来ないような稀覯本などが揃っているのだという。
 書楼弔堂しょろうとむらいどう。そこには元僧侶であった店主が、自分の為の大切な一冊を探すべく、集まってしまった数多の蔵書が眠る。それは死蔵している限り屍であり、墓石なのだという。それを売ることで供養する――本のため、そして大切な本との巡り会いを望む人のため、弔うのである。さて、あなた様は。
 どのようなご本をご所望ですか――。

 というわけで、何とも奇妙な古本屋が悩める子羊共にバッタバッタと特別な一冊を勧めるお話。ひどい説明だ。
 話の流れはお馴染みの感じですが、今回は文化的方面での蘊蓄による心情分析で「迷える者」の懊悩をほぐし、その相手が一番欲する書物を勧めるというもの。お楽しみの妖怪蘊蓄も(今回は書題やテーマから想像できる通り幽霊蘊蓄ですが)勿論あるものの、どちらかといえば本書では脇役的扱いです。
 メインは記載の通り文化的蘊蓄。というのも面白いことに、本書にはその時代に実在した or したかも知れない人物が「迷える者」として登場します。歴史小説とまでは言えないでしょうけれど、歴史小説チックくらいな表現はしても良いかも? なので近代歴史や近代文学が好きな人には堪らないネタばかり。芳年、泉鏡太郎、勝、圓了、中濱萬次郎、以蔵、小波さざなみ……どこかで見たような聞いたような名前がちらちら出てきてニヤニヤが止みません。そして最後の探書陸「未完」ではアレのシリーズのアノ人がアレのシリーズのアノ人にアレしたアレをアレで……うむ、是非実際に読んで楽しんで頂きたい(笑

 最後の作品は別として、本書はいつも通り分厚いですが基本的に小編で一話完結の物語を集めた形式を取っており、巷説シリーズ同様少しずつ読み進めることができる親切設計です。ただ内容ですが、個人的には近代文化に関する知識、および妖怪や幽霊の考え方に関する知識を多少なり得たうえで読まないと面白くないだろうと感じました。特に本作では後者はオマケ程度に浅く、前者の比重が高いようです。巷説シリーズみたく妖怪全盛期? 頃の舞台であれば文化的側面の知識は実際それ程必要無く感じます。それは時代における雰囲気がカバーしてくれますし。また京極堂シリーズみたく近代ながら妖怪蘊蓄の塊のような小説であれば、文化的側面は一切気にせず、それこそ本文中に書かれている妖怪や幽霊の考え方にのめり込み楽しめます。そういう意味で本作は多少読者を選ぶように思うのです。
 とはいえ、これまでの先生の作品を面白く読んできているならば然程問題ないでしょう。時代背景は異なれど京極節は健在です。そして本作における一件落着の趣は他シリーズと異なり沁々しみじみとして、不思議な穏やかさを感じさせます。この点、先生の他作品に無かった新境地のように思うのですが如何でしょうかね? 何せこれまでの作品、きっと誰か事件で死んだり狂ったりばかりだったからなァ……。

 そんな感じで。

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